相沢観察日記
by 北川 潤
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10/1
今日は台風が来ている。
コイツがなんでもかなりの大型らしく。
今も部屋の窓ががたがたといっている。
むう、壊れんだろうな。ウチの窓。
ちょっと怖くなったので窓を見に行く。
……よし、大丈夫だ。
しっかし、すんごい風だなぁ。
いろんな物が空を飛んでいる。
ごみや木の葉は当たり前。
あ、あれは傘か。
だれか飛ばしちまったんだな。
って、おお! あれってバケツか?
すげぇな。始めて見たよ。飛ぶバケツ。
あまりに多彩な飛行物にしばし時を忘れて見入ってしまう。
「のわぁ〜〜〜」
……
……今、人が飛んでなかったか?
気のせいだろう。
うん、気のせいって事にしておこう。
10/2
今日はまたまた体育祭実行委員会の日。
本番は10月第一週の日曜だから……6日か。
今日は明日からの体育祭準備の確認みたいなもんだ。
「……では、打ち合わせはこれまでですね」
生徒会長がそう言って周りを見回す。
「明日からは準備に入りますので各クラス割り当ての通りよろしく」
やれやれ、やっと終わった。
……まあ、実際はここからが大変なんだが。
資料を集め、席を立つ。
「あ、相沢君。北川君。2人は残ってくれ」
「あ?」
へ?
帰ろうとしたその時、生徒会長に呼び止められた。
「ちょっと打ち合わせを……な」
そう言ってニヤリと笑う。
なんだろう? 猛烈に嫌な予感がする。
生徒会室の奥にある『艦長室』に引き込まれる。
ちなみに表札は会長の手書きだ。
な、何なんですか? 一体。
「うむ、まずここでの秘密は守ってくれ。私も追手を放つのは心苦しいからな」
……追手?
「裏資金にも限りがあるから無駄にはしたくない」
は、はぁ……
というか、どこからツッコめば?
「……で、なんだ? 用っつーのは?」
「うむ、それなんだが。例の企画の事でちょっとな」
例のっていうと……『ガンサバイバー』のことですか?
そうそう、結局会長のネーミングは却下され、無難な名前になったのだ。
「そうだ。そのセンスの無いネーミングのそれだ」
ちなみに会長はいまだに根に持っているようだ。
「……で、なんなんだよ?」
帰るところを呼び止められたせいか。機嫌の悪い相沢。
まあ、俺だって決して良くないけどさぁ……
「そうそう、肝心の話なんだが、ちょっと仕掛けをしたいと思ってな」
仕掛け?
「うむ、どちらの陣営にも属さない特殊遊撃チームを作りたい」
特殊遊撃チーム? 何の為に?
「それは……面白そうだからだ!」
面白そう。だからですか。
「そこで、キミ達に10名ほどの精鋭を組織して欲しい」
はぁ……
「……んなめんどくさい」
あきらかにやる気の無い相沢。
ついでに言うと俺もやる気は無い。
「……キルマーク1つ事にボーナスを」
「何なりとお申し付けください。ボス!」
その場に片膝をついて頭を垂れる。
……相沢。
「うむ、期待してるぞ」
「ははっ! お任せあれ! 北川! 早く我らが軍事顧問にコンタクトを取るのだ!」
ぶんぶん手を振り回す相沢。
軍事顧問?
「一二三ちゃんに決まっておろうが!」
はいはい。
携帯で一二三ちゃんを呼び出す。
トゥルルルル〜
……なんだかなぁ。
金が絡むと相沢のヤツ人格が変わるぞ?
そんなに苦しいのかな?
とか思ったり。
10/3
今日から体育祭の準備。
まあ、準備といっても文化祭程大袈裟ではない。
なにしろほとんどの事は昨年のコピーでなんとかなるし。
つまり割り当てられた仕事も大した事はないんだが。
俺たちに割り当てられたのは各クラスへのプログラムの配布だ。
あと、前日に来賓のテントを立てるくらいか?
「おい、北川。後何クラスだ?」
えっと、あとは一階の一年。3クラス分だ。
「ふむ。一二三ちゃんのクラスか?」
それはもう終わった。
「あ? だがまだ一二三ちゃん見てないぞ?」
ああ、一二三ちゃんは今日休みだ。出かけてる。
「へ? なんで?」
アレだ。特殊遊撃チームの選定に余念がない。
「ああ、アレか」
なんでもサバゲーの知り合いから精鋭を引っ張れそうだと言っていた。
「ほほう……ちなみに聞くが」
女だ。
女子チームから来てもらうそうだから。
「女子の精鋭チームか。……シュワルツネッガーみたいなのかな?」
さ、さあ?
「チーム名は『地獄のスコーピオン 女殺し屋』とかかな?」
そのバカっぽい映画みたいなネーミングはやめんか。
「むう、楽しみのような、怖いような」
あのな……また女に手を出すつもりか?
「失礼な。しかも、またってなんだよ?」
……自覚ないのか、こいつ?
そのうち原さんから刺されるぞ?
10/4
今日は放課後に一二三ちゃん紹介の精鋭部隊との顔合わせがあった。
「お、いたいた。北川。きたがわー!」
誰かが俺を呼ぶ声。
「おいってば!」
って、なんだ。相沢か。
「俺で悪かったな」
で、何の用だ?
「あ、そうそう。一二三ちゃんがチームの代表を連れてきたそうだ」
というと例の?
「そうそう、例の女ランボー達だ」
酷いなぁ。それにしても例えが古いぞ? 相沢。
「うむ、古いと一週間で100円なんだ」
?? ああ! 駅前のレンタルビデオ屋か。
「そうだ」
と、それより早く行こうぜ。きっと待ってるぞ。
「ん、そうだな」
お〜い。一二三ちゃん。
「あ、潤さん」
例の人達、来てくれたんだって?
校門の近くで話し込んでいた一二三ちゃん達に話し掛ける。
そこには一二三ちゃんの他に3人の女性がいる。
「どうも、始めまして。チーム『華山』のリーダーの木野さくらです」
なかなかに可愛い子が話し掛けてくる。
あ、どうも。北川です。
「同じく〜 『華山』のサブリーダーの木野もみじで〜す」
あ、どうもって……へ?
同じ顔である。
「同じく、『華山』の平隊員の木野つばきであります!」
お、おおぅ。ま、また同じ顔……
「あ、春野さん達は三つ子なんです」
み、三つ子っすか。
ちょっとびびった。
さらにすでに誰が誰なのかもう分からんし。
「今回は面白い事に誘って頂いてありがとうございます」
3人の内の1人がすっと前に出る。
「さて、北川さん。早速ですが作戦とフォーメーションの確認の方を」
え? 俺?
「そうだぞ、お前が隊長だし」
嘘!?
「ホント」
聞いてないぞ!?
「言ってないし」
言えよ!
「あっはっは」
笑って誤魔化すな!
「まあまあ落ち着け」
くっ、こいつは……
「あ、あの、隊長。作戦なんですけど……」
あ、えっとさくらさん?
「私はもみじです〜」
へ?
「さくらは私です」
隣の子が手を上げる。
あ、あれ?
「なにやってんだ? こっちがさくらさんで、こっちがもみじさん。でこっちがつばきさんだろうが」
迷いもなく、あっさりと名前を当てる相沢。
よ、よく分かるな?
「みりゃ、わかるだろ?」
当然。と言う顔で首を傾げる相沢。
ごめん、俺。わからなかったよ。
「そんなんで大丈夫か?」
じゃあ、お前が隊長をやれ。
「あ〜、残念だ」
何がだ?
「俺は司令なのだ」
なんじゃそら!
「そう言うわけだ。がんばれ、大神隊長」
誰が大神やねん!
「まあ、『さくら』さんもいるし」
……あのなぁ。
「……潤さん?」
後ろから冷たい声。
振り向けば怖い笑顔の一二三ちゃん。
ち、違うよ!
相沢が勝手に言ってるだけで……
「……話はあちらで聞きましょう」
ぐわしっと襟首を捕まれ、そのまま校舎裏へと引っ張られる。
「え? あ、あの、作戦の方は?」
「うむ、司令たるこの俺が聞いておこう」
あ、相沢。
……助けては、くれんのだね?
10/5
今日は明日の体育祭に向けての準備。
グラウンドでは一・二年の体育祭実行委員達が倉庫から出してきた道具の整理を始めている。
俺達三年はライン引きと来賓用のテントの組み立てである。
まあ、俺と相沢はそれとは別の仕事が入ったんだが。
「おい、北川」
あ、相沢。
ベニヤとダンボールで屋上に設置された簡易作戦司令室前で相沢に呼び止められる。
明日はここから各種連絡が飛ぶ事になっている。
「早く来い。これからトラップの作成に入るんだからな!」
とらっぷ?
「そうだ。さくらさん達からの提案でな」
あ、あの人達は……
「で、だ。まずはコレだ」
と、相沢が出したのはかんしゃく玉。
どうすんだ? コレ?
「入り口にある足拭きマットの下に仕込んでおく。接近に対する警報代わりになる」
ほほう、なるほど。
「次にコレ。超強力ガムテープだ」
ガムテープ?
「粘着面を上にして板に張って置いておくだけでちょっとした足止めになる」
ほう。
「と言う訳でさっさと設置してこい」
って、お前は?
「俺は、ほら、司令だからさ、ここで全体の掌握をしないと……」
お前ナ〜
「いいから行け!」
く、キサマばっかり楽しおって。
ガムテープとかんしゃく玉を持って屋上を出てところで一二三ちゃんと会った。
「あ、潤さん」
あれ? 一二三ちゃんどしたの?
「これ、差し入れのクッキーなんですけど……」
といって箱を差し出す。
もしかして手作り?
「は、はい。皆さんでどうぞ」
あ、相沢は今忙しいそうだから下で皆で食べようか?
「え? そうなんですか?」
ああ。なにせ俺一人でトラップしかけて来いと言うぐらいだからな!
別に俺は怒ってないぞ?
ただへそを曲げているだけで。
「は、はあ」
ちょっと引いてる一二三ちゃんの手を引いて階段を下りる。
たまにはお前が貧乏くじを引かんかい!
と切実に思ってみたり。
ちなみに一二三ちゃん作のクッキーは銃や弾丸の形をしていた。
おいしかったけどね?
10/6
今日が体育祭の日。
グラウンドは普通に100m走やらリレーやらの普通の競技だ。
まあ、もっとも俺達は午後の為の仕掛けに余念がないのだが。
「さて、我らが精鋭よ。よく来てくれた」
現在俺達は屋上の簡易作戦司令室に全員が集合しているのだ。
折りたたみのイスに座った相沢がうなーと鳴く猫を膝に抱えている。
なぜかサングラスもしてるし。
それでは悪の組織だ。
「さて、作戦参謀。頼む」
「はい」
一二三ちゃんがホワイトボードに概略図を書きだす。
「アルファチームはここ。ブラボーチームはここに。チャーリー……狙撃班はここに」
校舎に次々とマーキングをしていく。
それに応じて自分の配置を確認している特殊遊撃チームのメンバー。
今回のレギュレーションでは一般参加者の使用武器はハンドガンのみだが、我らが遊撃班は長物の使用が許可されている。
そこでスナイパー用のPSG−1や突入班用のMP5など、凶悪な兵器を準備してきているのだ。
もちらんゴーグルの着用は当然の義務である。
「目標はすべて。よって基本はサーチ&デストロイで行います」
見敵必殺ですか。
「なお、私達には通常の10倍の得点が設定されているため、私達を狙ってくる事も考えられます」
そう、この戦いはポイント制で判定される。
倒した人数が一人1ポイント。
生き残った人も一人1ポイント。
両チームに10本配備されているチームフラッグが各5ポイント。
そして、我ら特殊遊撃チームには一人10ポイントが設定されているのだ。
高得点狙いでこちらを目標とする事も充分考えられる。
「うむ、とくにトロイ北川隊長。気をつけてくれたまえ」
うるさい。ほっとけ。
「よし、それでは総員配置だ。アンタバライ!」
あ、あんたばらい!
「……なんなんです? それ?」
宇宙軍。
「はぁ?」
……いいの。じゃ、行こうか?
一二三ちゃんに借りたP−90を構える。
サブウェポンはグロック17である。
「アルファ、ブラボー、チャーリー。ゴー!」
相沢の合図と共に散っていく特殊遊撃チーム。
さあ、戦争を楽しもう。
『ブラボー1よりゼロリーダー。ポイント4に侵入者。数は3。レッドと思われる』
俺の無線に通信が入る。
よし、ブラボーチームは予定の通り次のポイントへ。お客はこちらで排除する。
『了解』
アルファチーム。どうやらお客さんだ。こっちも行くぞ。
「アルファ1了解」
「アルファ2了解です」
「アルファ3了解」
こちらのアルファチームは一二三ちゃんがアルファ1。
アルファ2にもみじさん。
その他に、やたら体格のよろしい方が1名着いてきている。
よし、カウント3で行こう。
3
P−90のグリップを握りなおす。
2
つま先に体重をかける。
1
息を吸いこむ。
ナウ!
跳びだす。
「わっ!」
目の前には完全に混乱している男子生徒が3人。
赤い鉢巻からして赤チームか。
悪く思うな!
タタタッ
3連射する。
「たっ!」
先頭の一人に命中する。
よしっ!
と次の目標を探した時。
「アルファ1クリア」
「アルファ2。クリア〜」
「アルファ3クリア」
すでにもう戦闘は終わっていた。
ふう、上手くいったな。
「ちきしょう。お前らずるいぞ」
俺に撃たれた生徒が文句を言ってくる。
100対10だ。文句をいうな。
「ちぇ」
俺に向かって学生証を放る。
コレがキルマークとなるのだ。
「ちゃんと返せよ?」
ああ、あとで生徒会室に来てくれ。
早速3つか。
幸先良いな。
とりあえず司令室に連絡を入れる。
ゼロリーダーからホーム。
『こちらホーム。どうした?』
3つ落とした。
『ほう、やるな。先ほどチャーリーからも3つと報告があったばかりだ』
さすがはさくらさん。狙撃班も好調のようだな。
さくらさんはスナイパーなのでチャーリーを率いているのだ。
『ああ、どうやらレッドは3人1チームによる遊撃を行っているらしい。気をつけろ』
ホワイトは?
『わからん。篭城かもしれん』
篭城? この状況でか?
『まだ何とも言えん。ホワイトのことはブラボーが調査にでた』
了解。オーヴァー。
ぱんっ!
「おわ!」
背後からかんしゃく玉の破裂音。
後ろか! 散開!
「「「了解」」」
役に立ってるじゃん。かんしゃく玉トラップ。
そんなこんなでしばらく戦った後の事。
簡易作戦司令室から緊急通信が入った。
『ホームからゼロリーダー! ブラボーが全滅した!』
な! マジか!?
さくらさん達も動揺している。
『間違いない。相手はホワイトだ。やつら総力戦で来やがった』
なんだって?
『総力戦だ! やつらフラッグの防御を残して、残りの戦力全部で来やがった』
そいつはまた大胆な。
『20人ほどは道連れにしたが、こっちは4人がやられた。ポイントでは20の負けだ……』
なるほど。
味方の損失まで計算に入れての特攻か。
『ああ、やつら徹底的に俺達を狙ってくるだろう』
……どうすればいい?
『なるべくレッドにぶつかるように誘導するしかあるまい』
しかしレッドはバラけているぞ? ぶつけた所で……
『……こうなったらフラッグを狙っていくしかあるまい』
だがそれはリスクが高い。
『……』
ホーム?
『……がんばれ』
無線が切れる。
相沢め、諦めやがった。
「ゼロリーダー……」
一二三ちゃんが不安な顔を見せる。
く、こうなったらできるだけやつらを困らせてやろう。
分散して、小規模戦闘でホワイトの集団をつつこう。
「了解」
では行くぞ? ゴー!
……で、どうなったかと言うと。
赤 ポイント92。
白 ポイント203。
そして我らがポイント105。
かろうじてプラスだがわずかに5ポイントである。
やはり白による特攻が痛かった。
「5ポイントか。ボーナス500円かぁ……」
相沢が呟く。
かなり期待していただけにちょっと期待はずれだったようだ。
まあ、いいじゃないか。結構楽しかったぞ?
「お前らはそうだろうけど、俺にはよく分からんかったぞ?」
相沢が口を尖らせる。
まあ、お前はここで無線を聞いてただけだしな。
「はぁ、俺も突入班をやればよかった」
ははは、残念だったな。
笑いながら相沢の肩に手を置く。
本当、思ったより楽しかった。
ちょっと一二三ちゃんの気持ちが分かったような気がする。
「はぁ。もっと撃ちたかったなぁ……」
なにやら危険なことを呟く一二三ちゃんを見る。
……ホント、ちょっとだけ、ね。
10/7
今日は体育祭の振り替え休日。
本当なら一日中寝ていたい所だが、時間がない。
なんの? と言われればアレだ。
免許だ。
一二三ちゃんの誕生日が10月の30日。
免許試験が10月27日。
それまでに必要な単位をクリアしなければ……
幸い、教室での講習は終わっている。
後は高速教習に夜間教習。救命教習くらいかな?
とりあえず今日は高速教習へゴーなのだ!
……多分、腰は引けてるだろうが。
教習所のロビーを偵察する。
もちろん、姐御から逃げる為。
せめて今日くらいは平凡な教習を望みたいのだ。
姐御と一緒に高速教習など想像するにも恐ろしい。
「何が恐ろしいのだ?」
そりゃ〜、それこそエンジンの限界にチャレンジしそうな……気が。
「なるほど、それは思いつかなかった。やってみるか」
薮蛇である。
「さて、行くぞ少年」
ああ、十三階段が見える……
「さて、今日はこれだ」
そう言って姐御が指定した車は……
……普通っすね。
そう、普通の教習車だった。
あれ? この車体のナンバーって、初めて路上に出た時の?
「うむ、お気に入りだ。よく走るぞ?」
って、ことはアレっすか。
コレ、改造車だったんっすか。
「当たり前だ。さあ、行くぞ」
さっさと助手席に乗り込む。
「さっさとしろ」
はいはいっと。
走行前点検をしてから乗り込む。
さって、と。
神様。今日も死にませんように。
料金所で少し停車位置がずれて恥をかいたがまあ、なんとか高速に入った。
「ん、まずは流れに乗れ。アベレージ100km/hでな」
うい。
「うむ、今日の高速はすいてるな」
はあ、そうっすか?
こっちは公道では初の100kmオーバーでそれどころではない。
「ああ、これなら最高速テストも容易かろう」
……今、なんと仰いましたか?
「ん、しばらくは直線が続く。追い越し車線に入れ」
で、でも。
「入れ」
いえっさ!
反射的にハンドルを切る。
「アクセル踏み込め! ベタ踏みだ!」
さー、いえっさ!
ぐんっと体がシートに押し付けられる。
すでに振り切っていたメーターがひっくり返って新しいメーターが現れる。
な、なんすかコレ!?
新しいメーターには300まで表示があるし。
「よっしゃ! 燃えてきた!」
私は冷や汗だらだらですが!
「気にするな」
気にします!
「……細かいな」
姐御ががりがりと頭を掻く。
そう言う問題か!?
高速で流れる風景にビビリながらもハンドルは放さない。
すでにメーターは200近い。
あ、あの! 油温がレッドに入りかけてるんですけど!
「ん? ああ、大丈夫だろ? ……多分」
い、今。多分って言いました!?
「設計ミスかな?」
今、さらにとんでもない事言いました!?
「いいからどんと行け」
の、の〜〜〜!!
いや、何と言うか生きた心地がしなかったよ。
瞬間最高速度は226kmとかでてたしね。
なにしろちょっと漏れてしまったくらいだ。
いや、なにがかは秘密だけどね?
10/8
今日は勉強。
しっかし体育祭のすぐ後に中間テストっていうのはどうよ?
一種のいじめか?
なにせ、一学期が一学期だった為に今回はかなりマジにならないとマズイ。
と、いうわけで学年主席のお姉さんの元へ。
お代官様。お慈悲を!
「な、なんなのよ?」
再来週の中間テストの対策を!
「……ああ、そういうものもあったわね」
はい、あったんです。
「で、対策って?」
ほら、ここが出そうだとか。
コレだけは憶えとけみたいなポイントとか。
「無いわ」
それと……え? 無いの?
「無いわ」
無いんだ。
「無いわ」
なんつーか、容赦も無かった。
あ、あいざわー!
前の席の相沢に泣きつく。
「どうしたんだい? のび太くん」
ジャイアンが〜って、だれがのび太じゃ!
「ぴったりだと思うが?」
ふざけんな。
「で、だれがジャイアンなの?」
背後から絶対零度の声
あ、あう……
た、助けて。ドラえもん……
「黙れ、俺を巻き込むな」
そそくさと逃げる相沢。
そ、そんな。相沢が最初に振ってきたネタなのに。
「知らないわ」
問答無用だった。
ぎ、ぎにゃ〜!
10/9
今日も勉強。
放課後の教室で一人考える。
どうも相沢は俺のことバカだと思っているようだが、日本史や現国なら俺のほうがいい点を取っている。
ただ、俺は数学が破滅的にできないだけだ。
ついでに言うと英語も得意ではない。
俺たちの知り合いのなかで数学が得意なのが美坂。
英語が得意なのが相沢だ。
でも、できれば2人には教えてくれとは頼みたくない。
何故ならこういっては何だが、2人とももイイ性格をしている。
とくに相沢。
頼みごとをしようものならどんな交換条件を持ち出されるか。
そして美坂も何気にヤバい。
美坂の場合交換条件とかは無いが、とにかく教育方針がスパルタである。
手は出てこないが鋭い言葉が心を抉る。
容赦無いんだもんなぁ。
一学期の期末の時、美坂に教わって泣きそうに……いや、泣いたけど。
「誰が容赦無いんですか?」
はっ! み、美坂か!?
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません。
二度と逆らいません二度と逆らいません二度と逆らいません。
地面に頭を擦り付ける。
「じゅ、潤さん!?」
え? ひ、一二三ちゃん?
恐る恐る顔を上げる。
「な、なにやってるんです?」
あ、は、ああ。うん。な、なんでもないよ。うん。もう、全く。
慌てて立ち上がって埃を払う。
「な、何か悩みがあるんですか?」
うん、いっぱい。
「……え?」
い、いや、何でもない!
オラは元気だ! 界王拳2倍くらい!
「……大丈夫ですか?」
ごめん、ちょっと疲れてるかも。
10/10
今日は体育の日。
だが休日ではない。
ちょっと残念。
そういえば最近相沢が一刻館に帰っていく為、放課後が近くなると水瀬さんの元気が無くなっていく。
そらーもう、目に見えるくらい。
ってな訳でクラスの皆も気になっているようだ。
そんな中での今日の放課後。
「おう、北川。今日は肉まんでも食ってくか?」
そんな事は全くわかってない当事者が、『今日も元気ですたい!』という表情で話し掛けてくる。
「ね、ねぇ祐一? 今日は百花屋に行かない?」
水瀬さんがおずおずと話し掛けてくる。
「ん? 百花屋? ……行ってもいいが奢らんぞ?」
相沢がちょっと嫌そうに答える。
相沢にとって百花屋はある意味鬼門だ。二の足を踏む気持ちもよく分かる。
「うん!」
実に嬉しそうに微笑む水瀬さん。
「で、でね? 今日は、祐一と2人きりがいいなぁ……」
おっと、珍しい。水瀬さんのダイレクトアタックだ。
「あ、栞? そっちも終わった? ええ、今日百花屋行くから。うん。相沢君と。ええ、一二三ちゃんと天野さんにもよろしく」
だが背後ではすでに美坂が携帯で連絡網を回していた。
「う〜」
その美坂をちょっと睨む水瀬さん。
彼女としてはライバルは少ない方が良かったんだろうが美坂もそう甘くは無いらしい。
「ふふふ、抜け駆け禁止よ?」
携帯をしまいながらちょっと怖い笑みを浮かべる美坂。
「ちっ!」
悔しそうに舌打ちする水瀬さん。
あの、それとってもキャラに似合わないんですが。
なんつーか、いつの間にか女の戦いが繰り広げられていた。
2人の背後に竜虎の幻影が浮かぶ。
ちなみに水瀬さんが竜で美坂が虎だ。
「んじゃ行こうぜ〜」
だが、相沢はあくまで軽くさっさと教室を出ていってしまう。
あいつの場の空気の読めなさもある意味尊敬に値するなぁ。
なんてくだらない事を考えたり。
「あ、待ってよ。祐一〜」
「今行くわ」
慌てて後を追う二人。
先ほどまでのギスギスした空気はすでにない。
はぁ。なんだろうね、ホント。
10/11
今日は夜間教習というものをした。
つまり簡単に言うと夜に車に乗るのだ。
そのまんまですがな。
と、言う訳で教習所へ。
「よく来たな少年」
またっすか。
毎回思うんですけど、タイミングいいっすねぇ……
「まあ、なんというか……カン。かな?」
カン、ですか。
「ああ。野生のな」
野生!?
「なんとなくな」
は、はぁ……
この人も相沢並に分からない。
「じゃ、行くぞ。暗黒の世界へ」
……イヤな例えだなぁ。
で、姐御。今日の車は?
「うむ。これだ」
これだって……ランチアストラトス!?
な、なんだってまた。
「ん? ライトがいっぱいついてるからな」
……姐御。結構適当に決めてますね。
「ん」
否定しないし!
「じゃ行くぞ」
わ、待ってください。
慌てて車に乗り込む。
もちろん確認はしてからだけどね。
なんかいまさらだけど俺って高級車ばっかり乗っているような。
恐る恐る車道に出る。
いつものコースなのに何か違う気がする。
夜の闇がその腕を広げている。
まるで俺を飲み込んでいくようだ。
つまり簡潔に言うと怖い。
いや、だってね? 全然前が見えないんだよ。マジで。
夜の運転って、怖いんですねぇ。
気を紛らわせる為に姐御に話し掛ける。
「そうか? 夜のほうが燃えるが?」
……そ、そうですか。
今にも箱乗りとかしだしそうな姐御。
ああ、そういえば姐御ってアレなんだっけ。
今更ながらに思い出す。
「もっとスピード出してもいいぞ。というか出せ」
遠慮しておきます。
「……つまらん」
不貞腐れたようにシートに頭を預ける。
私はまだ死にたくないのですよ。
エライ人にはそれが分からんのです!
と、呟いてみたり。
10/12
時間的猶予もないので今日も教習所。
今日は噂の緊急救命教習である。
朝も早くから教習所へ。
ああ、めんどくさい。
大事な教習だということは分かるが、なんつーか、ねぇ?
とりあえず教室でぐったりする。
今日は相沢もいないので暇なのだ。
「ん、今回の受講生、移動するぞ」
……なぜに姐御が?
いや、確かに教官なんだけど。姐御の性格からいってこういうのサボリそうなんだけど。
姐御に先導されて特別教室に。
そこには大量の等身大人形が置かれている。
「さて、今回の講義はこのダミー人形の『ジェフくん』を使う」
……なんでジェフ?
気にしながらもダミー人形の前に並ぶ。
半端にリアルでちょっと怖い。
「ん、まず教習の前に言いたい事がある」
姐御が真面目な顔になってみんなの前に立つ。
「いいか、ただ、車に乗りたいキミ達にとってはこの教習は無意味に思えるだろう」
すっと目を閉じる。
姐御のあまりにも歯に衣着せぬ言い方に何人かの受講生が苦笑する。
「だけどこの知識だけは持っておけ、……いつか、助けられる命があるかもしれないから」
し……んと教室が静まり返る。
淡々と、だけど心に残る言葉を紡ぐ姐御。
いつになく重い言葉である。
姐御の過去に何かがあったのだろうか?
いつも行動が怪しい為気にしてなかったが、姐御も結構謎の人物だ。
「じゃあ、ヤレ。相手を殺さぬようにな」
……ジェフくんは死ぬんですか?
「まずは声をだす。周りに助けを求める。そこの少年。やってみたまえ」
え! 俺!?
「さあ、ごー」
う、ういっす。
……た、たすけてー
「もっと大きく」
たすけてー人が倒れてますー
「……ん。ま、いっか、みんなもやって」
姐御の合図と共にみんなで一斉に叫ぶ。
何回か叫んだ後。
「ん。じゃあ、次は人工呼吸で……」
エラく飛びましたな。
あ、あの。意識の確認とか気道確保とかは?
そうそうと周りの連中も頷く。
「ん、皆分かってるみたいね。じゃあ、次は人工呼吸で……」
おい。
いいんか? それで?
最初に言った事とぜんぜん違うじゃん。
「ん、少年。前にこい」
ま、また俺っすか。
「で、人工呼吸なんだがキスとは違う。だから……」
がしっ
いきなり俺の顔を両手で挟む。
へ?
「ん」
ぶっちゅ〜
ん!? ん! んん!!
思いっきり顔を引き寄せられたと思ったら唇に柔らかい感触。
お、おお〜
ざわめく観衆。
「ぷは、……と、このような真似はしないように」
って、アンタがしとるがな。
「ん、気にするな」
なんとなく姐御の顔が赤いような気がする。
は、ははは。
よかった。今日、相沢が来てなくてホントに良かった。
安堵の涙が流れた。
その後心臓マッサージやら何やらと最後まで受けたんだけど。
実際に身についたかは激しく疑問だと思った。
10/13
今日は一二三ちゃんとデート。
2人して街中を歩く。
なんか久しぶりだなぁ。
思わずしみじみとしてしまう。
「どうしたんですか?」
うん、ちょっと幸せを噛み締めていたんだよ。
「そんな、幸せだなんて」
くねくねと妙な踊りを踊りだす。
……やっぱ、ちょっと恥ずかしい。
そ、それにしても2人きりなんて久しぶりだね。
「そう言えばそうですね」
不思議そうに首を傾げている。
どうやら毎回メイさんが邪魔しているという事に気がついてないようである。
ま、まあ。いいさ。今日はのんびりしよう。
「あ、はい」
一二三ちゃんが腕を絡めてくる。
あう、む、胸があたってるよ。
……らっきぃ。
「ああ、いいなぁ♪」
ちょっと俺の顔が緩んだ瞬間後ろからかけられた声。
こ、この声は!?
恐る恐る後ろを振り返る。
「やっほ♪」
「メ、メイ姉さん!?」
そこには俺がもっとも苦手とする人物がいた。
や、やは。おひさしぶりですね?
「うん♪ やっと再試験が終わったんだよ♪」
再試験? メイさん頭いいでしょ? 何でまた?
「うん、試験中に途中で寝ちゃったから♪」
へ、へえ。
「おかげで昨日まで徹夜だったから眠くて眠くて♪」
そっすか。じゃ、早く帰って寝た方がいいですよ?
「う〜ん」
じゃ、俺達はこれで……
「ねぇ、そこで休んでいかない♪」
とメイさんが指差したのは西洋のお城を模した謎のビル。
ってなんばいいよっとか〜!!
隣の一二三ちゃんなんて顔が真っ赤だよ。
「さあさあ♪」
俺の手をぐいぐい引っ張る。
や、やめんか!
「あはははは〜♪」
どうやら徹夜明けでかなりハイになっているようだ。
ヤバイ! 眼がトンでる!!
俺の中の危険センサーはレッドを振り切っている。
ひ、一二三ちゃん! ダッシュでゴーだ!
「え? え? え?」
一二三ちゃんの手を取って走り出す。
「ちょ、ちょっと!?」
危険だ! 今のメイさんはフリーザ並に危険なんだ!
「何なんですか〜!?」
「あはは、待ってよ〜♪ 鬼ごっこだ〜♪」
くっ、しまった! メイさんの狩猟本能に火をつけてしまったようだ。
「待て待て〜♪」
「! !? ??」
状況のわかっていない一二三ちゃんは大混乱である。
ちなみに俺もよく分かっていない。
「あっはっは〜♪ 楽しいねぇ♪」
全力で走っているにもかかわらず全く距離が離れない。
いや、それどころかメイさんは鼻歌すら歌っているではないか!
「もっと走れ〜♪」
「! !? ??」
く、くそ〜!
その後ちょうど30分後にあっさりと捕まった。
結局アレかい?
メイさんに遊ばれてたという事かい?
せっかくの休日、せっかくのデートが台無しって感じだ。
何と言うか、とってもやるせない気分になった。
10/14
今日は休養日。
つーか。偶にはのんびりしないと俺の神経が持たん。いや、マジで。
と、いうわけで今日はごろごろするのだ。
畳の上に寝っ転がる。
はう〜、のんびり〜
なんとなく幸せな感じになる。
最近ハードだったからなぁ。
頭の片隅にもうすぐ試験だよ〜と囁いてくるものがあったがそんなのは無視だ。
とにかく今日はお休みしたい。
意味も無くごろごろと転がる。
むう、この畳の感触がなんとも。
ごろごろ
ごろごろ
ごろごろ
……ちょっとだけ幸せな気分になった。
10/15
今日からは真面目にお勉強タイム。
まあ、真面目にやっておけば大丈夫だろ、たぶん。
自分の部屋で珍しく机に向かう。
今日美坂に泣きついて借りたノートのコピーをもとにテスト範囲を総復習するのだ。
むう、それにしてもさすがは美坂。
ノートは要点を簡潔に、その上分かりやすく纏められていて、しかも読みやすい。
一部千円で売っても飛ぶように売れるに違いない。
いや、マジで。
取り合えず最も苦手な数学から。
……ふむ、なるほど。
ここでこの公式か……ふむ。
で、こうだから……
やった! 僕にもできたよママン!
とりあえず立ち上がってガッツポーズをとってみる。
虚しかった。
ついでに言うと恥ずかしかった。
咳払いをして席に座る。
さて、勉強、勉強っと。
再び美坂ノート(コピー)をめくる。
……あれ?
ノートの端の方に何か書いてある。
かすれていてよく読めないが……落書きか? 珍しいな。
興味が湧いたので解読を試みる。
えっと……相沢…君を……
なんだ、相沢関係か?
ちょっと驚く。
面白そうなのでもっと読んでみよう。
なになに……その気にさせる……10の方法?
な、なんじゃこりゃ。
その1、普段とのギャップを利用する。
2人きりのときにちょっと甘えてみると面白いくらいに慌てていた。効果A。
……な、何をしたんだろう? ちょっとドキドキだ。
その2、コスチューム。
どうやら相沢君は看護婦萌えとの情報を入手。今度試してみよう。
……ど、どこから入手するんだ?
その3、シュチエーション。
相沢君は押しに弱い。実証済。
……じ、実証済みなのかぁ。
なにやら後になるにしたがって結構ヤヴァイ内容のような気が。
それにしても一体何を考えているんだろう?
ぴんぽーんぴんぽーんぴぽぴぽぴんぽーん
何だ? こんな時間に?
ぴんぽーんぴんぽーんぴぽぴぽぴんぽーん
ほいほい、今出るよっと。
玄関を開ける。
「こんばんわ! 北川君!」
美坂? どしたの? こんな時間に?
「うん、その、北川君にあげたノートのコピー。ちょっと見せてくれない?」
ん? わかった、ちょっと待って。
部屋に戻ってコピーの束を持ってくる。
コレ?
「あ、そうそう。ちょっと貸して」
そう言ってコピーをひったくると持っていたサインペンで例の落書き部分を塗りつぶす。
「はい、これ」
あ、ああ。
「じゃあ、これで」
あ、ああ。
実にあっさりと帰っていく美坂。
実はもう見ちゃったんだけどなぁ。そこ。
……とりあえず見なかった事にしとくか。
10/16
今日で日記をつけ始めて半年。
飽きっぽい自分にしては良くやったと思う。
それにしても何で日記をつけようなんて思ったんだろ?
わざわざ書こうと思ったんだから何か心境の変化があったと思うんだが……
……思いだせん。
……ま、いっか。
さて、とりあえず勉強しなくては。
とりあえず机に向かう。
……目の前の窓の汚れ、気になるなぁ。
何気なくティッシュで拭き取ってみる。
うわ、真っ黒!
部屋からでて雑巾を持ってくる。
もちろん窓を拭くのだ。
ふきふき。
ふきふき。
ふきふき。
……ふう、綺麗になった。
思わず熱心に窓を磨いてしまった。
っと、いかんいかん。勉強せんと。
……
……
……本棚のマンガ本。巻数の並びがバラバラだな。
確か、この前相沢が遊びに来た時に読んでたような。
気になる。
普段なら気にならないが今日は異常に気になる。
ど、どうすればいいんだぁ!!
気がつくと本棚は綺麗に整理されていた。
って、ダメじゃん!
もしかしてコレが『勉強しようと思えば思うほど部屋が綺麗になる現象』か!?
お、おおぅ。
確かに部屋の掃除がはかどる。
ダメじゃぁ〜!!
磨かれて綺麗になった床を転がってみたりした。
10/17
今日、なにげなくコンビニに行ったらキャラメルマルガリータまんというのを売っていた。
キャラメルはともかく、マルガリータって何?
ど、どんな味がするのかなぁ?
ちょっと興味がでた。
思わず財布に手が伸びる。
って、ちょっと待て。
……隣の『手作り! 牛丼まん!』って、何?
よく見ると他にも結構怪しい物がある。
サラダまん。
八宝菜まん。
キムチまん。
イチゴまん。
のりたままん。
コロッケまん。
アイスまん。
コーヒーまん。
ソースマヨネーズまん。
紅茶まん。
……遊んでいるんだろうか?
さすがにこんなのは食いたくない。
「ありがとうございましたー!」
食いたくないと思っているのだが気がついたら買っていた。
むう、コレどうしよう?
な、なんか食べたくないなぁ……
「よう! どうした?」
コンビニ前で悩んでいると相沢に声をかけられた。
あ、相沢。お前こそどうしたんだよ?
「ああ、ちょっと母さんに頼まれてな。秋子さんに届け物だ」
そう言って手に持った荷物を見せる。
「で、お前は?」
あ、ああ。実はな……
相沢に、さっきのコンビニでの攻防を伝える。
「なるほど、興味に負けて買ったはいいが処理に困ってる、と」
うむ。まあ、なんと言うか気の迷いと言うか。
「よし、俺が半額で引取ってやろう」
なに? どうするんだ?
「真琴で遊ぶ!」
おいおい。
聞きようによっては危険な事を。
往来のど真ん中で、しかも大声で叫びおって。
「こいつはなかなか使えそうだ」
くっくっくと悪役笑いをする相沢。
なら定価で買ってくれよ。
「……断る!」
あいかわらずセコイな。
……まあ、分かってたけどさぁ。
「じゃあな!」
スキップしながら去っていく相沢。
……キャラメルマルガリータまんはちょっと食べてみたかったなぁ。
などと思ってみたり。
10/18
今日はメイさんに呼び出された。
一体何事なんだろう?
なんつーかとっても嫌な予感がするのだが。
渋りながらもメイさんの指定してきた喫茶店に行く。
行かなかったら後が怖いしね。
からんころん♪
えっと、メイさんはっと。
店内を見回す。
「潤くん、こっちこっち♪」
窓際の席で手を振るメイさん。
……ただでさえ目立つのに、さらに目立つような事を。
はいはい、今行きますよ。
「うんうん♪」
メイさんと向かい合わせに座る。
と、俺が席に着いた瞬間、タイミングを計ったかのように隣の席で新聞を読んでいた男が立ち上がる。
ふと、顔を上げると半泣きの顔だった。
な、何だろう?
俺が訝しげに眺めていると男は大声で泣きながら喫茶店から出ていった。
泣きながら、それでもレジでお金は払っていったが。
な、何なんだよ、ホント……
ちょっと呆然としてしまった。
なんか、メイさんは笑ってるし。
……なんか悪戯でもしてたんだろうか?
……ん、んん!
ちょっと心を落ち着かせる。
で、テスト勉強があるってのにわざわざ呼び出したからには、よほどの事なんでしょうねぇ?
ちょうど勉強がノッていた所だっただけに、自然、ちょっときつめの口調になる。
「うん、もう終わったから♪」
ニコニコと微笑むメイさん。
は? 何が?
話が見えない。
「実はさ、困ってたんだ♪」
そう言って、目の前のアイスティ―を一口。
ちなみに全然困っているように見えない。
はぁ。なにがですか? あ、俺コーヒーで。
話を聞きつつ、ちょうど注文を取りに来たウェイトレスさんにコーヒーを頼む。
「最近、ちょっとしつこいのに付きまとわれてさ」
しつこいのって……ストーカーってやつですか?
まあ、メイさんは外見はかわいいからなぁ。
……中身は魑魅魍魎だけど。
「う〜ん、そうなのかな? あたしと付き合いたいんだって♪」
へえ……ちなみに聞きますが相手の人って……
「男だよ♪」
んなもん、メイさんが男だってバラせば一発じゃん。
「言ったよ? でもそしたら男でもいいって言いだしてさ♪」
お、おおぅ。俺の知らない世界だ。
「あんまりしつこいから恋人がいるって言っちゃってさぁ♪」
……すんごい嫌な予感がするんですけど。
「でも、全然信じないからそれならって……」
待て。もしかしてさっきの……
「そ♪ その通り♪」
おい。
俺を虫除けに使うなよ……
「ごめんね♪ ココおごるからさぁ♪」
そのままテーブルにぐてっと倒れこむ。
「あはははは〜♪」
陽気に笑うメイさんが妙にムカついた。
10/19
今日は勉強の締めを。
なにしろ来週からは期末試験だ。
受験も近いだけにさすがに酷い点は取れないのだ。
わき目も振らずに勉強だ。
と、思っていたのだが……
「潤くん。お茶おかわり♪」
何でアンタがココにいる?
「お茶〜♪」
くっ、ちょっと待ってろ!
キッチンに下りてお湯を沸かす。
こうなったらぎゃふんと言わしてやる!
……まあ、ぎゃふん、なんて言った人見た事無いが。
めっちゃ沸騰したお湯でお茶をいれる。
くっくっく、思い知るがいい。
湯呑みにいれてもぼこぼこと沸き立つお茶をメイさんの所に運ぶ。
さあ! 粗茶だ。飲め! 好きなだけ!
だんっとメイさんの前に叩きつける。
「さ、潤くん。どうぞ♪」
へ?
「さっきからずっと勉強してて喉渇いたでしょ?」
……へ?
「ささ、どうぞ♪」
ずいっと俺のほうにお茶を滑らせる。
い、いや、俺さっき飲んできたから。
「さ♪」
俺の話を全く聞かず、さらにずずいっと俺のほうに押し出すメイさん。
ひょっとしてバレてるのか!?
戦慄が走る。
……いやぁ、今日はいい天気だ。こんな日は芝生の上で昼寝したいよね?
さりげなく、話をそらしてみるが。
「さ、飲んで飲んで♪」
く、くっ! 聞いてねぇ!
あ、あ〜 メイさんの大学は入試難しいんですか?
それでも一応軌道修正を試みるんだが。
「さあさあ♪」
……
「……」
……
「……」
……頂きます。
「♪」
覚悟を決めてお茶を口に運ぶ。
南無三!
ずずずっ
……あれ?
何ともない。
冷めてるよ。コレ。
「……ぎゃふん」
ふう……目標、達成。
10/20
明日は試験だ。
ここまで来たらうろたえても仕方ない。
ここは早めに寝て体調を整えるのが吉だ。
吉、なんだが……
気がつくと美坂のノートコピーを読んでる自分がいた。
だ、だって、不安なんだよ。
あうあうあうあう。
何故か半泣きになりながらページをめくる。
気がつくとかなり時間も経っているのだが頭の中には何も入ってこない。
あうあうあうあう。
再び最初から読み始める。
一体、何回読み返したんだろう?
手垢がついてボロボロになったコピーをめくる。
……そう言えば、六法全書を食べて憶えた男がいるとかいないとか。
じっとコピーを眺めてみる。
た、食べてみようかなぁ……
……
……
……
…………はむ。
……
……
……
……マズイ。
お、おのれ! 相沢!!
なんとなく相沢に八つ当たりしてみた。
ちょっと、すっとした。
10/21
今日からテスト開始。
開始なんだが……
目を覚ました時にはすでに遅刻決定だった。
げっ! なんでこんな時間なんだよ!
枕もとの目覚し時計を確認する。
秒針が止まっていた。
な、なんでやねん!!
思わず関西弁でツッコミ。
く、電池切れか!? なんでよりにもよってこんな日に!!
慌てて制服に着替える。
何で母さんは起こしてくれないんだ? って、旅行中だっけか?
鞄を掴むと全速力で突っ走る。
か、神よ! 我を救いたまえ〜!!
がらっ!
すいません! 遅れました!
「遅いぞ、北川。早く席につけ」
教卓でテスト用紙をそろえていた石橋がめんどくさそうに言う。
ういっす!
慌てて席につく。
「よ、遅かったな」
相沢がにやにやと笑っている。
あ、ああ。目覚ましが壊れていたようだ。
「なんだ、予備はなかったのか?」
ああ。
「大事な用がある時は複数の目覚ましを用意しておけよ」
と言っても名雪の真似は薦められんがな」
はあ?
何の事だろう?
「祐一、ひどいよ〜」
「やかましい! 先週数えたら44個もあったぞ! 3個も増やしやがって!」
……なんかしらんがとにかく凄いらしい。
「おい、相沢。はしゃぐな」
さすがに石橋に怒られた。
「へ、へい……」
アホめ。
「名雪のバカ……」
「わ、やめてよ〜 祐一〜」
相沢は水瀬さんになんかちょっかいかけている。
懲りないやつめ。
しおしおとうなだれる相沢を尻目にさっさと試験の準備をする。
シャーペン。よし。
消しゴム。よし。
予備の鉛筆。よし。
さて……これからが一勝負だぞ?
10/22
今日はテスト二日目。
昨日に続いて今日のテストもいい感じだ。
うむ、今回のテストは何気に調子がいい。
やっぱ、美坂ノートのコピーが効いてるんだろうか?
だが、まだ安心はできない。
なぜなら明日の最終日には俺の苦手の数学があるからだ。
こっからが真の勝負ぜよ。
「よ、北川。何やってんだ?」
テスト終了後にも関わらず、再び美坂ノートコピーを広げた俺に疑問を持ったらしい。
決まってんだろ。明日の為のその1だ。
「肘を脇から離さぬ心構えで、やや内側を狙いえぐりこむように打つべし!!……か?」
おしい! ちょっと違う。
「あ〜、そいつは惜しかったな」
「あははは」X2
「……何やってんの? アナタ達」
美坂の冷静なツッコミ。
……なんだっけ?
「そうそう、ジャブの撃ち方だ。確か」
あ、そうか。左を制する者は世界を制す。だな!
うんうんと頷く。
「違うわよ」
美坂の呆れた声。
へ?
「え? 明日の為のその2だったか?」
首を傾げる相沢。
いや? その1であってるはずだぞ?
「いや、だからその話じゃなくて、北川くんが数学の予習してる。と言う話だったでしょ?」
……そうだっけ?
「……さあ?」
2人して首を傾げる。
「アンタ達ねぇ……」
なぜか美坂に遠い目で見られた。
10/23
今日が中間テスト最終日。
問題の数学があったのだ。
「よう、北川。テストはどうだった?」
テスト終了後、相沢が話しかけてくる。
ああ、なんつーかバッチリだ。
「ほぉ、珍しいな。お前の苦手の数学なのに」
ふ、まあ、俺には秘密兵器があるからな。
「秘密兵器? カンペか?」
違う! コレだ!
ごそごそと鞄の中から秘密兵器を取り出す。
ぱかぱぱん! 単語帳〜!
「数学の対策に単語帳?」
相沢がツッコんできた。
ふっふっふ。コイツはただの単語帳ではない。
記憶の神、オハアドスの霊力の篭った単語帳なのだ!
「はぁ?」
この単語帳に書かれたモノは通常の1.27倍憶えやすいのだ!
「ずいぶん効果が微妙だな……で、どこで買った?」
ああ、この前週刊誌の通販コーナーで見つけたんだ。
自慢げに胸をそらす。
「騙されたんだ、あほ」
……へ?
「そんなのあからさまにインチキだろうが」
憐れむような顔でこっちを見る相沢。
そ、そんなバカな!
だ、だってここに書いた公式、ちゃんと憶えてるぞ、俺。
「それはアレだ。『カンペを作っていたらいつの間にか内容を覚えてしまった』現象だ」
……そういえば昔、そんな事があったような。なかったような?
しょ、証拠はあるのか!
嘘だったら記憶の神オハアドスのバチが……
「ソレが証拠だ」
……あたるぞ? って、へ?
「オハアドス、つまりOHAADOSUを逆から読むと……?」
USODAAHO…………嘘だアホ。
「あほ」
そ、そんな、鈴木くんや佐藤くんの効果のレポートだって載ってたのに……
「なんで、そんなのに騙されるかなぁ?」
マジで不思議そうな顔の相沢
お、俺の5千円を返せ〜!
「微妙に大金だな。ソレ」
う、うお〜!!
僕は真昼の月に向かって吠える事しかできなかった訳で。
う、ううう。
10/24
テストが終わったばかりでバテバテなのだが明日は教習所の卒業検定試験だ。
ちょっと、いや、かなり不安だが27日が免許試験である。
教習所のスケジュールからしてこいつがラストチャンスであろう。
と、言う訳で。
相沢から借りたドライブゲームをプレイ。
……遊んでるんじゃないよ? シミュレーションをしているんだよ?
と、自分に暗示をかけつつコントローラーを握る。
うお! 何と言うコーナー!
だが、まだ甘い!!
ふ、自慢じゃないがドリフトなら任せとけ! って感じだしな!
何気にハイな感じだ。
実はすでにぶっとうしで4時間ほどプレイしているのだ。
それ! 音速を超えろ!!
アクセルのボタンに力が篭る。
……しかし、コーナーを曲がる時に一緒に体が曲がっていくのは何故だろう?
なにしろ一度傾きすぎて倒れた事があるからな。
くぅぅ! なにくそ〜!
さらに力が篭る。
ここだ!!
と、限界まで力を入れた瞬間。
ピキッ!
悲鳴をあげる俺の指。
ぐ、ぐぁぁ〜! つった! 指がつった!!
床をごろごろと転げまわる。
の、の〜!!
10/25
今日が教習所の卒業検定試験の日。
すでに後が無い俺としてはなんとしても合格したいところだ。
「さすがに緊張するな」
今日は相沢も一緒に受けるようだ。
相沢はどうだ? 自信の程は?
「まあ、そこそこ。だろうな」
そこそこか、微妙だな。
「そう言うお前はどうなんだ?」
まあ、なんというか技術的には問題ない。
なにしろ姐御にしごかれてきたんだからな。
「ほう、そいつは凄い」
ただ……
「ただ?」
教官によっては命に関わるかもしれん。
「はっはっは! ナイス冗談!」
相沢がバカ笑いする。
……ふっ。
笑いつづける相沢を鼻で笑う。
「冗談……だよな?」
固まった笑顔のまま囁いてくる。
……だとよかったのにな。
暗いため息をつく。
「……マジかよ」
この教習所には冗談で人にスタント並みのアクションをやらす人がいるんだよなぁ。
そんなわけで、気楽に考えてると……死ぬかも?
「しゃ、しゃれにならんな……」
ああ。
「よう、少年。とうとうこの日が来たな」
あ、姐御……
いつもの如く唐突に現れる姐御。
「さて、今日は卒業試験だな。……手加減はせんぞ?」
……手加減してください。
相沢とは別れて姐御の指定した車へ。
よかった。普通の車だ。
……でも、改造はされているのだろうが。
「さて、いつものコースを流せ」
そう言うと助手席のシ−トを倒し、アイマスクをつけて横になる。
ご丁寧に欠伸つきだ。
あい、まむ!
とりあえず教習所内コースから外に出る。
恐る恐るいつも通っているコースを走る。
だが、姐御は横になったまま動かない。
というか、いびきまでかいている。
……なんだかなぁ。
ちょっとやるせない気分になる。
卒業試験だよ?
これが最後なんだよ?
それなのになんだ、このやる気の無さは。
……ちょっとムカついてきた。
お、おっと。
気がついたら制限速度ぎりぎりだった。
落ち着け、熱くなってどうする。
一度深呼吸をしてゆっくり気持ちを落ち着かせる。
……よし。
俺は俺の運転をすればいい。
姐御、姐御。終わりましたよ。
結局、教習所に帰っても姐御は起きなかった。
ちょっと、いやかなりムカだ。
ついつい起こそうとする腕に力が入る。
「……起きている」
姐御が静かにアイマスクをはずす。
へ?
「……エンジンの回転音にタイヤのグリップ音。それで大体はわかる」
へ?
「途中、焦ったな。ちょっと気になった……だが、まあ雛にしてはましなほうだ」
そう言って車から降り、運転席側に回ってくる。
こっちを覗き込もうとして、窓が邪魔だったのかこんこんと叩く。
あ、ちょっと待ってください……
慌てて窓を降ろす。
開いた隙間に顔を突っ込んでくる姐御。
「合格だ。少年……潤」
ついっと顔をつきだして俺の頬に軽いキス。
なっ!
「なかなか楽しかったぞ」
くすっと笑って顔を引く。
呆然とする俺を尻目に颯爽と去っていく姐御。
……あの人には、敵わないなぁ……
小さくなっていく姐御の姿を見ながら、温もりの残る頬に触れ。
一人、苦笑した。
10/26
免許試験を明日に控え、今日は家に遊びに来た相沢と共にお勉強。
と言っても教習所で貰ってきた予想問題集を元に交互に問題を挙げて答えあうだけなんだけど。
「よし、じゃあ俺から行くぞ? ……えっと」
相沢がぺらぺらと安っちいコピー製の問題集をめくる。
「お、これこれ。……問 上り坂の頂上付近やこう配の急な下り坂では、徐行しなければならないし、また追い越しもしてはならない」
えっと○。
「くっ、正解だ」
何故かやたらと悔しそうな相沢。
次は俺だな。
問 普通貨物自動車の積載物の高さ制限は、3.8メートルに統一されている。
「な、何!? ……ま、○」
ぶっぶー。不正解です。
三輪と660cc以下の普通自動車は、地上から2.5メートルまでです。
「ひっかけかよ!」
ははん、引っかかる方が悪い。
「次、俺な! 問 高速で走行中、ブレーキをかける必要があるときはエンジンブレーキで速度を落とし、ブレーキを断続的にかける」
う……○?
「……正解だ」
んじゃ、俺ね。
問 前方の信号機の信号が赤色でも、警察官が右折や左折の指示をしたときは、それに従わなければならない。
「また、微妙なヤツを……○だ!」
ほい正解。
「よっしゃ!」
……しかし、なんだな。こう言ってはアレだけど、普通の常識問題が多いけど、結構意地悪なのもあるなぁ。
「確かに」
でも、まあほとんどが常識問題だな。
「ああ、今までも勉強してきたしな。大丈夫だろ? ……たぶん」
あいかわらず楽天的だな。
「だって、試しにあゆと真琴にやらせてみたんだが、ほとんど正解していたぞ?」
な、何!?
「なんとかなりの高得点だった。結構、単純に考えた方がいいのかもしれん」
……相沢。
ゆらりと立ち上がる。
「? どうした」
きょとんとした表情でこっちを見る相沢。
とんでもない事をしてくれたなぁ。
「?? へ? どういうこと?」
何を言ってるのかわかりませんと首を傾げる。
いいか、あの2人が高得点を取ったからには。
……俺たちにミスは許されんのだぞ?
「……あ」
さぁっと血の気が失せる相沢。
失敗したら……どんなに笑われる事か。
虚空を見上げる。
「き、北川。全力をだすぞ!」
言われるまでも無いわ!
こっちはこっちで落ちれないワケがあるんだからな!
問題集を貪るように読みながら心の一二三ちゃんに合格の誓いを立ててみたり。
10/27
今日は免許の学科試験だ。
ちなみに実技の方は教習所の卒業試験をクリアしているので免除なのだ。
「よ、北川。早いな」
試験会場の前で相沢と待ち合わせていたのだ。
ああ、ちょいと緊張してな。
実は昨日の夜はよく眠れなかったしな。
「んじゃ、ちょっと早いけど行くか?」
ああ。
ちょっと早めに試験会場に入る。
どうやら俺と相沢の試験の部屋は同じのようだ。
「で、どうだ?」
席についた俺の元に相沢が話しかけてくる。
何が?
「自信の程だ」
うん、まあ、そこそこ。お前は?
「まあ、俺もそんな感じだ」
軽く雑談をして気を紛らわせる。
なにしろ最後のチャンスだからな。
「は〜い、受験生の〜皆さん。これから〜試験ですので〜指定された席に〜ついてください〜」
妙に間延びした喋り方の爺さんが入ってくる。
「おっと、じゃあ後でな」
相沢が去っていく。
さて、これからは最後の試練だ。
これさえクリアすればあとは一二三ちゃんとドライブが待っている!
エフェクト的に目から炎が吹き出ている感じか?
俺は今、猛烈に萌えている!!
えへ。
なんて、やっている間に試験開始。
ふ、ほとんど昨日やった問題と同じだ。
ちょろいぜ! ……ところでちょろいってどう言う意味?
いかん! 余計な事を考えてる場合ではない。
今は試験に集中だ!
……よし、一通り終わった。後は頭から見直してっと。
ん?
何やらすんごい嫌な感じがしたんだが。
もう一度答案用紙を見直す。
……げっ!!
マ、マークシートが1つずれてる!!
ど、どうすれば!?
頭の中が大混乱している。
じ、時間は?
左腕の腕時計を見る。
……まだある!
とりあえず解答欄の隣に答えを写してから一気に消しゴムをかける。
消えろ! 悪しき回答よ!
あんまり力をいれた為消しゴムが折れたりもしたが。
よし、消えた。後は解答欄に正しい答えを書き写すのみだ。
シャープペンの頭をノックする。
かちかちかち。
ん? ……まさか。
キャップを取って逆さまに振る。
……何も出てこない。
芯が切れた!?
動揺が走る。
ま、待て。確か予備の鉛筆がある。
缶ペンケースから鉛筆を取り出す。
よ、よかった。ちょっと芯が丸まっているが書けないことは無い。
「は〜い、あと5分で〜す」
相変わらず間延びした試験官の声。
な、何! 俺の腕時計ではまだ20分くらいあったはず!
慌てて腕時計を見る。
そこに表示されていた残り時間はあと20分くらいだ。
……待て。
何で、さっきと同じ残り時間なんだ?
さっき確認した時から4〜5分経っているはずなのにだ。
耳元に時計を近づける。
だが規則正しい音は聞こえてこない。
と、止まってるー!!
なんで、こんな時に!
って、そんな事いってる暇は無い!
急いで正しい答えを書き写す。
く、間に合ってくれ〜!!
そら〜もう、鬼のように書き写す。
うお〜!
「はい〜それでは〜解答用紙を〜集めてください〜」
う、うお、間に合った……
精魂尽きて倒れこむ。
後ろから解答用紙を回収してくる。
もう、勝手にして……あれ? 名前書いたっけ? 俺?
そこまで確認できなかった。
激しく不安だ。
試験会場を出て、相沢と合否結果発表用の電光掲示板の前で待つ。
……なんかやだなぁこういうの。
「そうだな、なんか、いたぶられているような気がする」
まあ、相沢は慣れてるだろ。
「そうだな……って、おい!」
ぱすっとツッコミ。
だってお前、デート現場に他の女に踏み込まれたりしてるじゃん。
具体的に言うと美坂に、だが。
「あう……」
がっくりとうなだれる相沢。
ふ、勝った。
<まもなく、結果を発表します。皆様、電光掲示板に注目してください>
お、そろそろだ。
電光掲示板をじっと見つめる。
ぱっ
点いた。
俺の番号は……ある!
合格だ!
「よっしゃ! 合格」
相沢もか。俺もだ。
ぱ〜ん!
片手を上げた相沢の手を軽く叩く。
……ちゃんと名前書いてあったんだ。よかった。
10/28
何とか免許の取得には成功した。
次は残る問題なんだが……
なあ、同士相沢。
放課後に自席で免許を眺めてにやにやしている相沢に声をかける。
「あん? なんだ、同士北川」
うん、ちょっと話があるんだが……
「何だ、金なら無いぞ?」
それは分かってる。
お前に金の話はしないよ。
「そ、そうか」
自分から言い出したわりには密かにショックを受けている様子の相沢。
……なら、言わなければいいのに。
「で、何だ?」
ああ、倉田先輩とコンタクトを取ってくれ。
ちょっと頼みたい事があるのだ。
「佐祐理さんと? 何だ?」
えっと、車。
「は?」
倉田先輩のメガクルーザーを借りたいのだ。
その、一二三ちゃんとのデート用に。
「あ、ああ。なるほど。そう言えば、いかにも一二三ちゃん好みの車だったなぁ」
うんうんと頷く相沢。
そういう事だから……
「ちょっと待て」
そう言うと携帯を取り出し、どこかにかける。
「……あ、佐祐理さん? 俺、祐一だけど、今暇?」
どうやら倉田先輩に連絡を取っているらしい。
って、おい! まだ俺の話が終わってないぞ!
「……うん、うん。じゃ、放課後に百花屋で」
ピッ
切ってしまった。
「アポが取れたぞ」
アポだけ取ってどうする!
俺はお前に頼んでもらおうと思ったのに。
なぜならそっちのほうが成功率が高そうだからだ。
「あ……」
ぱしっと自分の頭を叩く相沢。
気づかなかったらしい。
「あ、あ〜 やっぱこういう事は自分の事は自分で頼まないとな」
明らかにめんどいという表情をする相沢。
くっ、もっともらしい言い訳しおって……
わかった。頼んでくれたら、お前の欲しがっていた洋モノの裏を……
「さあ! 行こうか? 北川君!!」
いきなり立ち上がる相沢。
実に分かりやすい男だ。
よし、行こう。
「ああ!」
百花屋についた。
さて、倉田先輩はっと。
「祐一さ〜ん!」
あ、倉田先輩。
席から立ってこちらに向かって手を振っている。
「ぐはっ! 目、目立ちすぎです!」
周囲の視線を受けた相沢が精神的なダメージよろめく。
と、誰かに後ろから支えられる。
「あ、あれ? 舞?」
川澄先輩だ。
い、一体いつの間に……
「……よう」
「お、おっす舞」
相沢を立たせるとさっさと倉田先輩の下に行ってしまう。
相変わらず謎な人だ。
ちょっとビビリながらも俺たちもついて行く。
川澄先輩の前に相沢。倉田先輩の前に俺が座る。
「で、祐一さん。佐祐理にお願いって何ですか?」
「ん、ああ。えっとだな。俺の友達の北川に佐祐理さんの車を貸してやって欲しいんですが……」
「はぇ? 北川さんって誰ですか? 舞。知ってる?」
「……知らない」
ずるっ!
って、アンタの目の前にいる俺ですがな!
「あ、あなたが北川さんですか〜 始めまして〜」
あ、始めまして〜 って、ゴールデンウィークとか夏休みとか一緒に旅行に行ってるがな!
その他にもちょくちょく会ってる。
「……祐一以外の男に興味は無いから」
「舞……」
見詰め合う2人。
こらこら、そこ! 許可なくらぶらぶフィールドを展開しない!
「えっと、それで、佐祐理の車でしたっけ?」
可愛く小首を傾げる。
そうです。貸していただけたら、『相沢を一日自由にしていい券』を差し上げます。
「お、おいおい、北「貸します」……川」
即答だった。
「お父様のポルシェでもフェラーリでも好きなのを持っていってください!」
妙に血走った目で身を乗り出す倉田先輩。
「……いいな、佐祐理、いいな」
「あはは〜 もちろん使う時は舞も一緒だよ〜」
「……ぐっじょぶ」
びっと親指を立てる。
なんか微妙に違う気がするがまあいい。
ふう、これで交渉成立ですね。
よかったよ。上手くいって。
「……なあ、俺の立場は?」
相沢がポツリとこぼす。
ない。金髪巨乳もつけるから許せ。
相沢の耳元に囁く。
「……女優さんが香里似のアレも」
くっ、了解だ。
少々高くついたような気がするが、……まあ良いとしよう。
10/29
今日、帰る途中に相沢母に出会った。
というか、捕まった。
「よお、北川くん」
へ?
聞きなれない声に振り向けばそこには大荷物を持った相沢母の姿。
あれ?
「ひさしぶり」
と言ってぱかっと俺の頭を叩く。
きっとコレがこの人なりのコミュニケーションなんだろう。
いたっ、ど、どうもっす。
「いい所であったな。今、暇かい?」
あ、嫌な予感。
えっと、実はこれから……
「ああ、そうか。じゃあ、コレ持って」
と言って問答無用に手提げ袋を押し付けてくる。
うわ、重!!
なんだコレ。鉛でも入ってんのか?
い、いやですね? その、これから……
受け取りつつも一応反論してみるが。
「いやぁ、一応オレも女だからな。体力無くて」
聞いちゃいねぇ。
……なんなんですか、コレ?
半ば諦めながら尋ねてみる。
「ああ、コレか。土産だ」
みやげ? お土産ですか?
「あたり」
軽くウインク。
でも、お土産って誰に?
「誰にって、あっちの同僚に」
へ?
「今週末に帰るから」
へ?
「夏休み終りなんだ」
あ、ああ。
そう言えばそろそろ一ヶ月が経つ。
そうかぁ〜夏休みがねぇ〜
って、ことは相沢は?
「祐一? 連れて行くけど?」
マジ!?
「いや、嘘だけど」
ニヤニヤと笑う相沢母。
くっ! ホント相沢そっくりだ。
「まあ、またしばらくは秋子の所で預かってもらうつもりだけどね」
は、はぁ。
水瀬さんとか喜びそうだなぁ。
「そんなわけで、あと5軒ほど回るからよろしく」
はぁ……はあ!?
それはつまり荷物持ちをしろ。ということだろうか?
「そう」
って読まれてるー!?
「さ、行こうか」
むんずと襟首を捕まれる。
きょ、今日は倉田先輩の所に、車を借りに行こうと思ってたのにー!!
と、言っても後の祭りだった。
10/30
今日は一二三ちゃんの誕生日。
何とか免許も間に合ったし、倉田先輩からメガクルーザーも借りれた。
さっそく放課後はドライブと洒落込もう。
授業が終わると同時に一二三ちゃんの教室に迎えに行く。
えっと……一二三ちゃんはっと。
いた。
鞄に教科書を詰めている所だ。
お〜い、一二三ちゃ〜ん!
「じゅ、潤さん!?」
俺の声に驚きの声を上げる一二三ちゃん。
はて? 何をそんなに驚いているんだろうか?
顔を真っ赤にしながら一二三ちゃんがこっちに駆けてくる。
「潤さん! ど、どうしてここに!?」
なにやら妙にテンパっている一二三ちゃん。
い、いや、ほら、偶には迎えに来ようと思って……
「ああ! な、なんてことを……」
がっくりとうなだれる一二三ちゃん。
「あらあら一二三♪」
「一二三ったらお盛んね♪」
「一人身に私達の前でね♪」
その一二三ちゃんを取り囲む3つの影。
「晶子ちゃん、麗華ちゃん、鈴ちゃん」
引きつった笑顔で振り返る一二三ちゃん。
「まあ、今日のところは見逃すけど♪」
「明日はきっちりと♪」
「ウタって貰うからね〜♪」
それぞれ一二三ちゃんの肩を叩いて教室を出ていく。
「「「それじゃあ、また明日」」」
「あうう〜」
半泣きになっている一二三ちゃん。
な、なんか悪い事しちゃったかなぁ……
ぽりぽりと頭を掻く。
「いいんです。ええ、いいんですよぅ……」
全然いいようには見えないが。
そ、それじゃ、帰ろうか?
「うう、はい〜」
と、まあそんなわけで一二三ちゃんの連れ出しに成功したのであった。
「あれ? 潤さん。道が違いますよ?」
校門を出てすぐ、いつもとは違う方向に歩き出した。
いいんだよ、こっちで。
「はぁ?」
……そう言えば今日は誕生日だったよね? おめでとう。
「わぁ! 知ってたんですか? ありがとうございます!!」
嬉しそうに微笑む一二三ちゃん。
それでね、ちょっとドライブにでも行こうと思ってさ。
「え? 潤さん免許取ったんですか?」
ああ、3日前に取った。
「み、3日前!?」
あ、大丈夫。技術的には姐御のお墨付きだから。
「……姐御?」
なにやら黒い波動をにじませる一二三ちゃん。
そ、そんなわけで! こんな車を用意してみました!!
危ないタイミングで車を用意してある駐車場に到着である。
「え? こ、これ……ですか?」
呆然と車を見上げる一二三ちゃん。
そう、メガクルーザー。……まあ、倉田先輩から借りたんだけどね?
「ほ、ほんとにこれに乗っていいんですか!?」
わくわくした表情でこっちを見る。
ああ。さあ、どうぞ、お嬢様?
助手席のドアを開けて一二三ちゃんをエスコート。
「わぁ……」
おずおずと乗り込む。
それを確認してから運転席へ。
さて、とりあえずあの公園へと行ってみましょうか?
「はい!」
例の公園に到着。
もちろん安全運転で来た。ドリフトとかはしなかったぞ。
近くの駐車場に車を止め、中に入る。
「……ここに来るの、久しぶりですね?」
ああ。そうだね。
最初にここに来たのは……そう、初めてキスしたとき。
懐を探る。
あ、あれ? どこいった?
ポケットというポケットを探し回る。
不思議そうな眼でこっちを見ている一二三ちゃんの視線がプレッシャーだ。
あ、あった。
右のポケットから小箱を取り出す。
一二三ちゃん。改めて誕生日おめでとう。
一二三ちゃんの手を取ってそれを握らせる。
「え? これって?」
開けてみて。
恐る恐る箱を開ける一二三ちゃん。
その中には小遣貯めて買ったシルバーリング。
「……潤さん」
……うん。
潤んだ目でこっちを見上げる。
そのままキス。
そしてゆっくりと離れる。
誕生日。おめでとう。
「ありがとう……ございます。大事にしますねこの婚約指輪」
…………あれ?
た、ただのプレゼントのつもりだったんだけどなぁ。
あ、あはは。……ま、まあ、いっか。
10/31
今日は珍しく美坂が休み。
なんとなく水瀬さんも寂しそうだ。
なあ、今日美坂どうしたんだろう?
とりあえず相沢に尋ねてみる。
「あ? 北川知らなかったのか?」
何を?
「香里は今日受験だ」
受験?
「そう、推薦入試」
推薦!?
「ああ、なんだかんだ言っても学年主席だ。ありうる選択肢だろ?」
そ、そうかぁ、推薦かぁ……いいなぁ。
「ま、香里のことだ。まず間違いなく受かるだろう」
そうだな。美坂なら受かるだろう。
……と言うことは、美坂はもう受験終了?
「だろうな」
……後は学生生活をエンジョイ?
「……だろうな」
…………受験勉強に苦しむ俺達を見て『あら? 受験勉強? がんばってね?』とか高笑いしながら言われ
ちゃうのか!?
「……い、いや、さすがにそこまではしないだろ?」
言い切れるのか! 相手は美坂だぞ!!
「う、う〜ん……」
引きつった笑いのまま固まる相沢。
「二人ともひどいよ〜 香里に言いつけちゃうから」
今までの話を聞いていたらしい水瀬さんが、不機嫌そうに言う。
「な、何! じょ、冗談だろ? 名雪?」
そ、そうだよ。単なる冗談じゃないか。
「……二人とも本気だったくせに」
な、い、いや、そのね?
「名雪! ……イチゴサンデー食べたくないか?」
「エ?」
……いきなり買収か? 相沢。
「だめだよ、祐一。そういうのはいけないんだから」
お、珍しい。抵抗しているぞ。
「まあ聞け、実はな、百花屋で新製品のイチゴスプラッシュマウンテンサンデーが出たそうだ」
「イチゴ……スプラッシュ……」
あ、かなり心惹かれている。
「3千円もする逸品だ。しかも期間限定らしい」
「……」
なにやらおろおろと周りを見回す水瀬さん。
「しかも! ……今なら、俺と北川のおごりだ」
「!!」
「……どうかね? 名雪君?」
「わたし、しらないよ、いま、おきたんだもん」
あ、堕ちた。
「いい子だ」
よしよしと水瀬さんの頭を撫でる相沢。
その顔は一仕事やり遂げた充実感に満ちている。
……なんだかなぁ。
まあ、助かったからよしとするか。
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